5人衆
俺は中学生になった。
小学校高学年から少しずつ芽生えてきた中2病が一気に加速するそんな時期に、俺はやたらと出会った。
俺が振り分けられたクラスは1年1組。
我が青山台中は、藤白台小学校、北千里小学校、青山台小学校の3校から生徒が集まる。
と言っても、藤白台小学校は4クラス、他の2校は1クラスだけだったので、ほぼ藤白台小学校の生徒が割合を占めていた。
1年1組に配属されたわけではあるが、ほぼ藤白台小学校の生徒で埋め尽くされており、クラスの半分以上の生徒は同じ小学校の人間であった。
中学生というものは溶け込むのが早く1、2ヶ月経つとみんな仲良くなっているものだ。
俺は「1-1 5人衆」と呼ばれるグループ的なものに属していた。
メンバー構成は
ケンジ・・・学校の外の名門サッカーチームでサッカーをやっており、スポーツ万能、勉強もできる(当時)、なおかつイケメンというチートキャラ。後に大不良に変身。
コウジロウ・・・バスケ部(のちにサッカー部へ転向)。こいつもイケメンでモテる。中1ながら洋楽しか聞かない。ナイフを持ち歩くなど、中2病にどっぷり片足を突っ込んでいた。
ヒサシ・・・バスケ部。当時も今もムッツリ。表には出さないが多分相当「エロ」に関してかなりの興味を持っていたと記憶している。
ユウゴ・・・サッカー部。5人衆の核弾頭。天然で天才。アホと天才は紙一重という言葉はこの男の為の言葉だと思っている。
この4人に俺を足した5人で5人衆と呼ばれていた。
なぜこの5人衆が出来上がったのか。
これを説明していきたいと思う。
入学から半年。その日は10月に行われる体育祭の出場競技を決める話し合いが行われていた。
体育委員の福井ひびきが教室の前でみんなに訴える。
「静かにしてください!これを決めないと帰れないですよ!」
「だまれナルシ!」「お前が全部出ろ!」
「なにお前が仕切ってんねん!」
などの誹謗中傷が福井に浴びせられた。
もちろん俺は率先して福井に暴言を浴びせてた。
「なにお前が仕切ってんねん」に関しては、この子が体育委員やから当然なんだけども。
青山台中学の体育祭には、大トリで「男子800mリレー」
というものが存在した。
1人×200mを走り4人でリレーするもの。
残すところ、このリレーに誰が出るのかみたいな話になった。
「誰か出てくれませんか!?」福井は訴える。
「お前が1人で800m走れや!」という俺。クラス大爆笑。
こんなので大爆笑になるのだから中学生というのは怖いものである。
結局、誰も立候補しないまま終わり、その日は終わった。
そのリレーの走者4人を決めるということが完全に頭から抜けた数日後のある日、
クラスに大きな紙が張り出された。
その紙には「体育祭出場競技表」と、書かれ、リレーの出場者も勝手に決められてた。
俺は目を疑った。
第1走・・・ケンジ
第2走・・・俺
第3走・・・森山
第4走(アンカー)・・・コウジロウ
走る順番まで勝手に決められていて、ケンジ、コウジロウ、俺の3人は福井の元へ走った。
「どういうことじゃコラァ!!!」
と。特に怒っていたのはコウジロウ。何故なら彼はものすごく足が遅い。そしてスタミナもない。200mを全力で走り続ける体力がないのだ。
首を絞められてる福井。
彼曰く、この4人にした理由は「ケンジと俺は足が速いから。森山はなんとなく。コウジロウはその日休んでたから。」
理由ガバガバ。百歩譲って3人はまぁわかる。「森山はなんとなく。」ガチでとばっちりもいいとこ。笑
確かにこいつも俺と同じ野球部で毎日きつい練習してるけど、絶望的に足が遅い。
このメンバー構成で勝てるわけがない。
恥さらしになるのは目に見えていた。
しかも何故1番遅いやつをアンカーにしたのか。
普通リレーは1番速いやつをアンカーにするもの。
常識的に考えればケンジがアンカー。
完全に福井は適当に決めやがった。
先生に「ほなもうでたるから順番とコウジロウだけ他のやつに変えて」と訴えるも、「もう変更は効かない」の一点張り。
「最下位になったらお前殺すからな」と福井を詰めた。
「いけるいける!」と福井。果たして彼の運命は。
当日。俺は密かに思っていた。「コウジロウ休め!」と。メンバー変更が効かないのであれば、欠場にして誰かを入れ込めばいい。
恥さらしはごめんだ。あんなにクラスでイキりまくってるのに結果としてリレー最下位だけは勘弁したい。
普通にコウジロウは登校してきた。俺は絶望した。
体育祭が始まる。
初めての中学での体育祭は楽しかった。
どのクラスも一歩も譲らぬ接戦で、残すところあと男子800mリレーとなった。
この時点で、4クラスの点差はわずかであり、この男子800mリレーの優勝したクラスが、総合優勝勝ち取れるような構図となっていた。
「頼むぞ!リレー!」とか「お前らにかかってる!」とかクラスメイトから檄が飛ぶ。
割と本気で勝ち目がない。「はぁ…」重い足取りでリレー位置につく。
ピストル音と共に、まず第1走のケンジが走り出した。
ケンジは学年トップクラスの足の速さだ。
他の3クラスも「ケンジが1走!?」ってなってる。まず他のクラスで1走目に速いやつを持ってくるクラスはない。何故なら1組は「適当に決めた」順番、走者なのだから。
ケンジは2位と50mくらい差をつけて、2走の俺へとバトンを渡した。
「2走伊藤かい!?1組つよ!」なんて声が聞こえてくる。いや、違うねん。例えるならば、お子様ランチでハンバーグ食うてそのあとデザートいくようなもんやねん。あと残ってるのはちょっとしかはいってないスパゲッティと、サラダやねん。
速いやつから先に出し惜しみせず出すっていうバカな作戦やねん。
俺は必死に走りながら後ろを振り返る。
4組のまきお君が見えた。ケンジがつけた50mの差を縮めるようなことはしてはならない。しかし、まきお君もなかなか速く、なかなかその差は伸びない。
「いや、まきおデブのくせに割と足速いのなんやねん、これ終わったら絶対あいつ殴る」
とか思いつつ、60m差くらいで3走森山へ。
必死に走る森山。顔まじガイコツ。
「走れー!モリシー!!!」
そう応援するけど、嫌でも走っとる。笑
そしてその何秒か後、4組のまきおくんがバトンを渡した相手は陸上部の宮崎。
絶句した。「ざっきょん4組やったんかい!しかもアンカーちゃうんかい!」
陸上部で学年で恐らく1番足の速い彼が3走とは、1組の適当采配とは真逆で「奇襲」というやつである。
必死に走る森山を猛追するざっきょん。
どんどんその差は縮まっていく。
40mくらい縮められただろうか。
アンカーコウジロウへ。走り出したコウジロウ。どう考えてもアンカーの走力じゃないし、なによりも絶望したのは靴。
わかるかな?バスケのなんかのモデルのオシャレーなやつ。ハイカット。俺リレーでハイカット履いて走るやつ初めてみたわ。
数秒後、4組のアンカーへとバトンが渡った。4組のアンカーは田中たかし。
マジか。たかしは同じ野球部で、野球部でもダントツの足の速さだ。インド人みたいな顔してるくせにめっちゃ足が速い。「カレー」と言うとキレる。
4組の3走がざっきょんなのはなんの奇襲でもなかった。ただ単に学年トップクラスの2人が揃った為、どちらかが3、4走になるだけ。
終わった。グングン追い上げるたかし。ゴールまで30m。もうこの時点で1組か4組かに優勝は限られている。
頑張れコウジロウ。ゴールまで30mのところでコウジロウは死にそうな顔して走ってる。足が遅い上にスタミナが絶望的にないのだ。
ゴール15mくらいだろうか。ついにたかしがコウジロウを射程圏内に捉えた。
俺は思った。「終わった…まぁ二位でも大健闘やろ。」
次の瞬間、コウジロウのかかとが、たかしの足と絡まり、たかし転倒。
コウジロウは何故か転ばず。そのままゴール。1組優勝。
喜びとか、達成感とか、この奇跡とかいろんな感情が芽生えたであろうこの瞬間。
そんな感情が芽生える前に大爆笑だった。完璧に足絡まってたのになんでコウジロウだけこけへんの!?って。笑
結果、1組は総合優勝。
リレーを勝手に走らされた4人のおかげである。
そのリレーの走者を勝手に決めた福井が得意げに「俺の選出まちがってなかったやろ?笑」と、言ってきた。全員でしばいた。普段大人しい森山も一緒にしばいてた。
体育祭終了後、
5人衆の1人田中ユウゴが嬉しそうに寄ってきた。
「今日から俺ら「5人衆」やな!」って。
「ん?どういうこと?」
と聞き返すと、
「体育祭、活躍したケンジ、セイジ、コウジロウ、ヒサシ。そして俺。5人で、5人衆!」
と言った。
確かにリレーに走ったケンジ、俺、コウジロウは大活躍扱いでいいと思う。
ユウゴとヒサシはムカデ競走に出場したのみで、しかも最下位。
「お前全く活躍してへんやないか!しかもヒサシも勝手に入れんなや!ガハハハハハハ」
話がものすごく長くなってしまったが、
これが「5人衆」の誕生秘話である。
体育祭から数日。5人衆は学校生活を共にすることが多くなった。
ある日好きな芸能人の話になった。
ケンジ・・・長澤まさみ
コウジロウ・・・名前忘れたけど海外の女優
ヒサシ・・・綾瀬はるか
俺・・・田中麗奈
ユウゴ・・・蒼井そら(AV女優)
爆笑した。本気で好きやったらしい。
中1とは難しい時期で、女性の体に興味を抱く時期なのだが、友達にもそれは言えないみたいな風潮なのだが、ユウゴが蒼井そらを激白してから5人衆のなにかが崩れた。
くしゃみするとき「ハックション!!」ではなく「セッッックス!!!」ってくしゃみしたり、
誰とヤリたいかみたいな話になったり、
みんなでケンジの家に泊まってオールでAVを見続ける会を2週1で行うなど、
体育祭の輝きから一転、ただの変態集団と化してしまった。
田中ユウゴのせいである。
最後に、俺はこの田中ユウゴは天才だと思っている。天然で笑いを誘う力もあるし、ウケを狙って笑いを生み出す力もある。
音楽の授業で「ドナドナ」という曲を1人ずつ歌うテストみたいなのがあって、
「ドナドナドーナ、ドーナー」と歌う部分を
ドナドナの曲調に乗せて
「千の夜を超えて〜今あなたに伝えたーいー」
って、アクアタイムズの千の夜を超えてを歌い続けた伝説を持つ。
先生も音楽止めないで最後まで聴いてた。笑腹よじれるかおもた。
2年くらい前、偶然ユウゴに会って、今好きな芸能人誰なん?
って聞いたら、
「明日香キララ!」って即答で帰ってきた。びっくりするくらいAV女優やった(笑)